米で一句。(2009年9月25日執筆)

ある日ある昼下がり、黄金の稲穂が頭を垂れる畦道を北上していた。
目的地までまだもう少しかかりそうだ。

以前見かけたことのある一軒のお店が目に入った。

店の名前は「白ごはん」という。

古き良き日本の風景に馴染んだ1軒のお店は旅人を誘引するに十分な魅力に輝いていた。


ボクは交差点の赤信号で妄想した。
きっと店主はパンチの効いた主人に違いない。
でも笑うと小じわが素敵な職人肌。
短冊にはきっとメニューが2種類しかないはずだ。

白ご飯定食(大)、白ご飯定食(小)

恥ずかしがることはない。
旅人として、大きな声で、秋の稲穂に感謝の気持ちを込めて、「白ご飯定食(大)をお願いします!」と堂々とはっきりそう注文しよう。


そうだよね。
思い返せば、いつも君が主役だったね。
いつの間にか大切な何かを忘れてしまっていたんだね。

ギュッギュと握ってごめんよ。
巻き巻きしてごめんよ。
混ぜ混ぜしてごめんよ。
ふりかけてごめんよ。
炒めつけてごめんよ。
カレーをたくさんかけてごめんよ。
丼にしてごめんよ。
おかずなんてもうこの際なんだっていいんだよ。
君さえいてくれたら。

変わってしまったのはボクの方だったんだね。
そう君こそが定食なんだよ。

ひと通りの妄想を終えたボクは指示器で右折の合図を送った。
砂利道の敷地内に車を止め、ギアをPの位置に入れた。
そしてドアを開け、店の暖簾を見た瞬間にボクは驚愕した。


「めん処 白ごはん」


一瞬気を失ったようだ。
気がつけばボクは両膝をがっくりと砂利道に付き、少し擦り剥いていた。

もう一度暖簾を見た。
そこにはやはり紛れもなく「めん処」の大きな文字が書かれていた。


ボクは急いで車に戻り、ギアをDの位置に入れた。
そしてこれまでの妄想を振り払うように車を北に走らせた。
一軒の店に出会い、店の名前から勝手な妄想を走らせ、精神的ダメージを受けた。
とびっきりうまい白ごはんを食べさせる店だと思い込んだのは私の不覚であったが、ただあの店名は紛らわしいことは間違いなかった。


カーステレオからユーミンが流れてきた。

おしえて 大人になるっていうのは
もう 平気になる心
死にたいほど傷ついても
なつかしいこと



ボクは流れる涙を拭きながら、とにかく車を北に走らせた。
揺れる稲穂にはもう目を止めることはなかった。




多謝我身体造米
(私の身体を作ってくれた米よ、本当にありがとう)

因製歌曲一首
(よって私は一首の歌を作り)

代米述意
(米の心情を代わりに述べてみようと思う)



旅の恥じ 饂飩屋なのに 白ごはん  丹後松島 炭水化物



(大意: ひとり旅に出かけてみたら おもいがけず自分でも驚くほど自分勝手な妄想に明け暮れてしまった しかしながら 店の名前が白ごはんという極めてストレートなネーミングにもかかわらず まさかうどん屋さんだとは想いもしなったのも事実なりけり いやもう旅の恥は忘れてしまおう かの芭蕉が愛した松島に匹敵する美しい景色があるではないか うどんも白ごはんも 炭水化物であることには変わりない そう丹後も松島も美しい景色であることに変わりはないのと同じように  )