道で一句。(2009年10月7日執筆)
君が歌を詠むことで、おもしろくないと思う人間だっているんだよ。
ボクはその言葉の意味が全くわからなかった。
それでもずっと考え続けた。
その言葉の意味について、寝ても醒めても、一日だって忘れた日などなかった。
夜になれば頭に浮かふ。
この言葉を頭からかき消すために、ウイスキーソーダを飲んだ。
レモンを絞り、皮をかじった。
ウイスキーの香りとレモンの皮の苦味が口に残留してる時間だけは、なぜかボクのこころは少しだけ晴れやかになった。
考えた。
あれからずっと考え続けた。
結局答えは見つからなかった。
そしてボクが歌を詠むことを支えてくれる人々のことを想った。
するとボクがずっと考えていたことは、ただの奇麗ごとに過ぎないんだということに気が付き始めた。
ボクはいまここに生きている。
前を向いて生きている。
向かい風の中、嵐の中、大雨の中、這いつくばってでも前に進みながら生きている。
この道はいったい誰に為の道なんだろう。
そう、誰の為でもなく、僕の為の道だ。
これはボクの人生なんだ。
歯を食いしばった。
精一杯歯を食いしばった。
夜中に大きな満月を見ながらどこまで歩けるのかひたすら南に向かった。
やがて夜が明け、朝日が昇り、太陽はどんどん頭の上に登っていった。
足の痛み、喉の乾き、太陽の日差し、リュックの重さ、肩の痛み。
もう前に進めない小さなファクターは数え切れないぐらいたくさんそこに落ちていた。
何度も拾って大きさを確かめてみたけど、それは全部とても小さな小さなことだった。
自分に負けたくない。
強い人間になりたい。
まだスタートラインにも立ってはいない。
男は決してあきらめてはいけない。
そんな歌を心でつぶやいた。
やがて太陽が傾き始め、夕陽になって沈む頃、ボクはもう前に進むのをやめた。
そう。
歩くもやめるもボクが自分で決めるさ。
ボクの道はボクの人生なんだから。
多謝我歩道
(ボクが歩いた道よ、本当にありがとう)
因製歌曲一首
(よって私は一首の歌を作り)
代道述意
(道の心情を代わりに述べてみようと思う)
この道は 紀州へ続く けもの道 負けるなヒトシ まだはじまつてないさ
(詠み人知らず)
(大意:でこぼこ道や まがりくねった道や アスフアルトや 砂利道や どちらにせよ この道は 紀州という あなたが自分で決めた目的地に続いているはず かつては猪などが開拓した道で 道中には多くの前に進まない理由が転がつているだろう 歩くも立ち止まるもあなたの意志でお決めになるがよい ただひとつだけ伝えておこう ヒトシといふ名だと聞いた 自分に負けるのではないぞ これまで多くの道を歩いてきたようなことを想いがちだが 実は あんたの道はまだなんにもはじまつていない そう まだなんもはじまってないんぢゃ )