橋で一句。(2009年10月15日執筆)

『 確かめる前に 信じてもいいですか…。 』


こぼれないように。
溢れないように。
心に涙をいっぱいためて。

息を吸い込み、嗚咽を精一杯抑えて、彼女はこう囁いた。


夜の海の闇の中に浮かぶ月の満ち欠けは
海辺の潮の満ち引きと呼応しているように思えてならない。
涙も同じように、溢れて出て、いつかは乾いていく。
止まぬ雨がないように、止まらぬ涙もまたない。

気がつけばいつでも石橋を叩いて渡ってきた。
一歩踏み出す勇気を、飛び込む自信なんて、これっぽっちも持ったことがなかった。

彼女がそんなことを心の中で呟いている。
ふと海辺を見れば、闇の中を突き進むナポレオンフィッシュがにこりと彼女に微笑みかけた。


今までの君は間違いじゃない
君のためなら七色の橋を作り 川を渡ろう


彼女は歩いて海辺に浮かぶ舟に向かった。
入り江に止めた車のヘッドライトとテールライトが闇夜に浮かんでる。
そしてナポレオンフィッシュはもう一度彼女に微笑みかけたあと、闇の中に消えていった。

今までの君はまちがいじゃない
君のためなら橋を架けよう
これからの君はまちがいじゃない
君のためなら河を渡ろう



多謝彼女一歩踏出橋
(彼女が一歩踏み出す勇気を与えてくれた橋よ、本当にありがとう)

因製歌曲一首
(よって私は一首の歌を作り)

代橋述意
(橋の心情を代わりに述べてみようと思う)




海風に 漂う魚と 七色橋  どこ誘うかすら 我も知るらむ

(大意:夜の海風の中 漂う魚を見た 七色の橋の下の魚 私をどこに誘っているのだろう 確かめなくてもいいのだろうか ずっとそうやって生きてきたけど でも今度ばかりは 誘いに身をゆだねてみよう 魚を信じて見れば 私の知らないどこかへたどり着けるかもしれない)